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「成長の罠」の罠 〜バリュエーションは重要だが・・・

株式投資の世界には「成長の罠」という言葉があります。これは、インデックス投資+α戦略の有効性を示した、ジェレミー・シーゲル氏が、著書「株式投資の未来」の中で語った言葉です。

シーゲルは、高成長を続けていたIBMより、レガシー産業の代表であったスタンダードオイルの方が、株価リターンが高かったという事実を紹介しました。簡単に言えば、IBMよりスタンダードオイルの方が、長期に渡ってバリュエーションが優秀(PER等が割安)だったので、配当再投資することによる持ち株数増加で、トータルリターンが逆転するという理屈です。

そしてシーゲルは「企業の成長力と株価リターンは比例しない」という事を、この2社の例を交えて「成長の罠」という言葉で表しました(下表)。

IBMとスタンダードオイルの比較(1950〜2003年) ※数値は年平均
  EPS成長率 セクター成長率 平均PER トータルリターン
IBM 10.94% 14.65% 26.76倍 13.83%
スタンダードオイル 7.47% -14.22% 12.97倍 14.42%

この一般常識とは真逆のデータを示したことで、シーゲルの著書を読んだ投資家は、大きな感銘を受けました。日本でも多くの信者を生み、彼の手法を取り入れた投資法は「シーゲル派(※注1)」と呼ばれ、一部のインデックス投資家から絶大な人気を集めることとなりました。

しかしこの「成長の罠」理論にも、大きな落とし穴があります。確かに株価リターンは、企業の成長力だけではなく、バリュエーションも重要だという事には、疑う余地はないでしょう。しかし、あくまで「企業が成長していること」が大前提なのです。

前出の例、スタンダードオイル社の株価利回りがIBM社のそれを上回れたのは、スタンダードオイルも(IBMより劣るとはいえ)年率7.47%もEPS成長率があったからです。だからこそ、投資家の底堅い支持を集められ、長期では高い利回りをもたらしたのです。もしスタンダードオイルのEPS成長率がゼロであったなら、当然ながら投資家から買われ続ける事は無かったから、高い利回りを生むことは無かったはずです。

日本の大型株は「成長の罠」の前提条件を満たさない

このことは、現在の日本企業への投資に対する、強烈なアンチテーゼとも言えます。「日本株はPERなどのバリュエーションが割安だから積極的に投資すべきだ」と唱える学者も多いですが、これは安直すぎる理論です。

日本株、それも日経平均に採用されている大企業というのは、今後の成長見込みがほとんど無い企業のオンパレードです。日本の内需は少子高齢化・人口減少によって、縮小していくことは確実です。一方で、高成長が見込める新興国市場への進出は、日本企業は大きく出遅れています。そして2012年の大規模な反日デモで、日本企業の中国進出には、多大なリスクが顕在している事が浮き彫りになりました。日本経済の牽引役だった自動車と家電産業は、国際競争で負け組に陥りつつあります。家電企業などは、2010年代にほぼ全滅するのでは?シャープやソニーの経営難が、それを暗示しているといえます。

日本株のPERが割安でも、EPSがゼロ成長やマイナス成長を続けていれば、誰も株を買おうとはしません。だから、企業のEPSが成長しなければ、株価は未来永劫上がらない恐れが高いのです。もし、成長がゼロなのに株価が上がっていくなら、それは単なるバブルに過ぎません。

つまり「成長の罠」理論が成立するには、企業が成長していることが大前提であり、成長が見込めない国や企業には当てはまらないのです。成長の罠を根拠に、日本株〜それも日経平均のような大企業インデックスに投資する人たちは、「成長の罠の罠」にはまっていると言えます。

株式投資には、バリュエーションは大事です。しかし、やはり企業の成長性も、同じくらい・・・いやそれ以上に大事なのです。

 

◆関連サイト◆
低PER戦略の有効性;バリュエーション指標の代表である「PER」の有効性を示すデータを記載。

※注1;某巨大掲示板にも「シーゲル派」スレッドが常駐されている。バリュエーション第一の人達が集まっている故、市況が悪いときほど活発に発言が増え、逆に良いときには過疎化するという、株式板としては珍しい性質がある。

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